第1章4





「あのう、桐谷くん、朝練お疲れさまです。良かったらコレ、貰ってください…」

 

 

なんか…マズイ場面に遭遇しちゃった…?

反射的に物陰に隠れる私。ゴメンね、覗くつもりはなかったんだけど…

 

小動物みたいなカワイイ女の子が、上目遣いでおずおずと控えめに差し出したのは、アクエリアスの500mlペットボトル。

 

「俺自分のあるから」

「あ…そ…か、お節介だったよね。ごめんなさい…」

 

 女の子の大きな瞳が潤んだ。クルリと彼に背を向け、校舎の方へ走っていく。

 差し入れくらい貰ってあげればいいのに。小動物の彼女、校舎の入り口で待ってた友達に慰められてる。

 

 

「あーあ、カワイソウ」

同じクラスの野球部の男子。今の、見てたんだ。

「なんで受け取らないの?わりと可愛かったのに勿体ない」

「自分のドリンク持ってるし」

「そーいうんでなく。今のは桐谷に気があるからお近づきになりたいっていうことだろうが」

 淡々とした様子の桐谷くん。対照的に、面白がってるみたいな野球部員。

 

「だったら余計、気をもたせるようなことはしないほうがいいだろ」

「え、桐谷彼女いたの?」

「いないけど」

「じゃ、今好きなヤツでもいる?」

「……」

「お、図星?」

「…」

「誰だよー、クラスの女子?」

「いや」

 

 

 何だかいたたまれなくなって、私は校内に逃げた。桐谷くんのあの態度、好きな人、いるんだ…よね。前の学校の人かな。

 叶わぬ恋…って感じだったなぁ。……まぁ…私には、関係ないけど。

 

 

 

 

「今日のホームルームでは、来週行く遠足の班を決めてもらう。今決まらなかった人は放課後残ってもらうからなー」

教室に入ってきた担任教師が全員を見渡して、教卓に両手をついて宣言した。そういえば、もうすぐ遠足があるんだっけ。

ザワザワする教室で杏奈の方を見たら、目が合った。杏奈はパチンってウインク。もちろん一緒の班だよねって、アイコンタクト。

 

「男女2人ずつで4人の班を作れ。はい、適当に散って相談してー」

担任はそれだけ言って、どかっとパイプ椅子に腰かけてあくびをしてる。

 

「咲、男子どーする?」

「んんー別に組みたい人、いない」

 同性のグループはほとんどできてるけど、異性はどうしようって雰囲気。こういう時って、誰かが先陣切らないと進まないんだよね。

 

 

 

 

「なー!男女の組み合わせはアミダにしよーぜー!」

 

大きな声に、シンって教室が静まった。

「どーせなかなか決まらないし。そんなら手っ取り早くアミダでいいっしょ?組みたいグループ決まってる人は参加しなくていいからさ。」

 麻生晴義(あそうはるよし)。先陣はやっぱり、クラスのムードメーカー的存在の彼だった。すでにアミダくじ作りに取りかかってる。

どーせお前が楽しみたいだけだろーって男の子何人かに茶化されて、バレた?って舌を出す。なんか、憎めないカンジ。

 

「じゃ、参加する人は好きなとこにグループ代表者の名前書いてってー」

 麻生くんがアミダの紙を黒板に貼り付けると、瞬く間に人だかりができた。

 

 

 

 

「よろしくー」

「……」

 目の前にはニカッて笑った麻生くんと、無表情の桐谷くん。

「こっちこそ、ヨロシクっ!コレも何かの縁だし、楽しい遠足にしよーよ、ね」

 さすが、杏奈は持ち前のノリの良さで二人と話してる。

 

「椎名さんも、よろしくね〜」

「あ…うん、よろしく…」

 

麻生くんって人懐っこい。ペコってちょっと頭を下げたら、その花カワイーねって髪につけてたバレッタをつつかれた。

他の男の人に同じコトをされたらきっと構えちゃうのに、麻生くんがやると全然嫌らしさがない。

 

 

なんだか楽しい遠足になりそう。

 ふふって、自然と笑みが漏れた。





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