第2章7





tearは、表向き、キレイになりたい女の子のための、コミュニティ。

 だけど、本当の運営指針は、

 

 キレイになって、男に復讐すること。

 

 そういう女の子って、けっこう多い。

 過去に男性に酷い事をされて、恨みを持ってる人。

 だからtearには、キレイになるための知識だけじゃなく、男をその気にさせる話術やテクニック、そんなコンテンツもたくさんある。

 

すべては、男を舞い上がらせておいて…最後に突き落とすために。

 

 

 だからtearに入会したきっかけ、前向きな気持ちだけとは言い切れない。

 キレイになって、いつか大翔くんと再会したら…

 

 昔、彼に散々見た目をバカにされた私。

その私のこと、好きにさせて、勘違いさせて、最後にフっちゃえば?……って。

 

 私の中の醜い部分が、囁く。

 

 辛いダイエットに耐えた。オシャレなファッションと、髪型も研究した。

紫外線対策はキッチリする。夜更かしはなるべくしない。流行りのメイクだって覚えて。

髪の手入れも、肌の手入れも、怠らなかった。

 

 これだけ今まで頑張ってこれたのは、純粋に可愛くなりたかったからだけじゃ…ない。

『仕返しする』っていう柱に寄りかかっていないと、立ち直れなかった、私。

 

なんて未熟で、弱いんだろう…。

 

 

 

 

「ごめん…」

 

桐谷くんは真っ直ぐ私の目を見て、言った。

 

「俺のせいで、傷つけた。

こんなことになるとは思わなかったんだ」

 

 彼の瞳が、辛そうに揺れる。握り締めた掌は、震えてた。

 

「桐谷くん…もう…」

「本当に悪かった!」

 

もういい、と言おうとした声をかき消して。

頭を下げて謝る桐谷くんの中に、あのときの、悪魔のような彼はもういない。

 

「こんなんで俺がしたこと、赦されるとは思ってない。けど、聞いて」

また、視線が合わさった。

 

「俺は椎名さんに、本気だから」

 

真剣な目に、射抜かれる。

 

「さっきのキスも、悪かった」

「…!」

 

 そうだった。私…桐谷くんとキス……

 やだ…。思い出したらまた、顔に熱が集まってくみたい…。

 

「顔、あげて?」

 

 ……そんな、優しい声で言わないでよ…。

目…合わせたくないのに、抗えない。

ずるい。

 

 

「椎名さんはアイツのこと…って思ったら、止まらなかった」

 

「……」

 

「もうムリヤリあんなことしない。けど俺は、ずっと好きだよ」

 

 本当に、本気だ…。

 言ってることは真逆だけど、あの朝、小学校の図工室で対面した彼と、同じ目の色。

最初は信じられなかったんだ。つい最近まで仲の良かった友達が…まさか、そんなわけないって。

何か事情があるんだって、信じてた。

けど、大翔くんの目を見たら、ああ…冗談で言ってるんじゃないって、確信した。本気でこんな酷いことを言ってるんだ…って。

 今も、そう。本気で私を好きって、目が言ってる。

 

 

「昔の仕返しでも復讐でも、何でも好きにしてくれていい。

チョーシに乗せられて、裏切られたって構わない。

 それだけされても当然のことを、俺はしたから」

 

面と向かって、真剣な顔で、桐谷くんは本音を紡ぐ。

 

 それが、余計に辛かった。





 面白かったらぽちっと
↓とても励みになります
web拍手 by FC2

inserted by FC2 system