tearは、表向き、キレイになりたい女の子のための、コミュニティ。
だけど、本当の運営指針は、
キレイになって、男に復讐すること。
そういう女の子って、けっこう多い。
過去に男性に酷い事をされて、恨みを持ってる人。
だからtearには、キレイになるための知識だけじゃなく、男をその気にさせる話術やテクニック、そんなコンテンツもたくさんある。
すべては、男を舞い上がらせておいて…最後に突き落とすために。
だからtearに入会したきっかけ、前向きな気持ちだけとは言い切れない。
キレイになって、いつか大翔くんと再会したら…
昔、彼に散々見た目をバカにされた私。
その私のこと、好きにさせて、勘違いさせて、最後にフっちゃえば?……って。
私の中の醜い部分が、囁く。
辛いダイエットに耐えた。オシャレなファッションと、髪型も研究した。
紫外線対策はキッチリする。夜更かしはなるべくしない。流行りのメイクだって覚えて。
髪の手入れも、肌の手入れも、怠らなかった。
これだけ今まで頑張ってこれたのは、純粋に可愛くなりたかったからだけじゃ…ない。
『仕返しする』っていう柱に寄りかかっていないと、立ち直れなかった、私。
なんて未熟で、弱いんだろう…。
*
「ごめん…」
桐谷くんは真っ直ぐ私の目を見て、言った。
「俺のせいで、傷つけた。
こんなことになるとは思わなかったんだ」
彼の瞳が、辛そうに揺れる。握り締めた掌は、震えてた。
「桐谷くん…もう…」
「本当に悪かった!」
もういい、と言おうとした声をかき消して。
頭を下げて謝る桐谷くんの中に、あのときの、悪魔のような彼はもういない。
「こんなんで俺がしたこと、赦されるとは思ってない。けど、聞いて」
また、視線が合わさった。
「俺は椎名さんに、本気だから」
真剣な目に、射抜かれる。
「さっきのキスも、悪かった」
「…!」
そうだった。私…桐谷くんとキス……
やだ…。思い出したらまた、顔に熱が集まってくみたい…。
「顔、あげて?」
……そんな、優しい声で言わないでよ…。
目…合わせたくないのに、抗えない。
ずるい。
「椎名さんはアイツのこと…って思ったら、止まらなかった」
「……」
「もうムリヤリあんなことしない。けど俺は、ずっと好きだよ」
本当に、本気だ…。
言ってることは真逆だけど、あの朝、小学校の図工室で対面した彼と、同じ目の色。
最初は信じられなかったんだ。つい最近まで仲の良かった友達が…まさか、そんなわけないって。
何か事情があるんだって、信じてた。
けど、大翔くんの目を見たら、ああ…冗談で言ってるんじゃないって、確信した。本気でこんな酷いことを言ってるんだ…って。
今も、そう。本気で私を好きって、目が言ってる。
「昔の仕返しでも復讐でも、何でも好きにしてくれていい。
チョーシに乗せられて、裏切られたって構わない。
それだけされても当然のことを、俺はしたから」
面と向かって、真剣な顔で、桐谷くんは本音を紡ぐ。
それが、余計に辛かった。