第2章8





「私の“見た目”が、キレイになったから?」

「…!」

「整形して可愛くなったから、好きになったの?」

 彼の肩がわずかに揺れた。

 

「今の私の外見が昔のままだったら、好きって言ってくれた?」

「…そ…れは」

「そんなわけ…ないよね。好きな人に、あんな酷いこと、できるわけない。“大翔くん”は“香奈”のこと、好きでも何でもなかったでしょ?」

むしろ、嫌悪してた。

遊びで夢へのチャンスを潰してしまえるくらいに。

 

たとえその行動が、幼さゆえの過ちだったとしても。

 

「久しぶりに会った私が、見た目だけ好みの女の子になってたからって…それで好きになれちゃうの?」

 

 昔のことにこだわってるわけじゃない。

 ただ、人を見た目で判断する人のことは…好きじゃない。

 

『昔の私』を知ってる桐谷くんが『今の私』に本気であればあるほど…人を、女の子を見た目で判断してるってことなんだよ?

 

 

「私、そういう人はムリ…」

 

 

 世の中の大多数の男の人と、変わらない。

 女の子のこと、装飾品みたいに連れて歩いて、自慢して、鼻を高くしていたいだけ。

 

 

「だから…ごめん。私のことは」

「嫌だ」

「…え?」

「諦めろって言うんだろ?だったら嫌だ。誰を好きでいようと、俺の自由」

「でも私は…っ!」

 

「俺のこと好きになるのはムリ?……そんなの…」

 

「……!」

 

 トンって。

 桐谷くんの膝が、私の座ってる隣のイスに、乗って。

 ちょうど目の前にきた喉仏が、動いて、低い音を奏でる。

 

 

「やってみなきゃわかんねーだろ」

 

 

私の耳元、不敵に囁く声は自信満々、余裕って感じ。

 

 意志が強くて、いつだって…私のコトバじゃ揺らがない。

 その顔は、クラクラするぐらい『男の人』で。

 とても、直視してられなくて……ぎゅって、キツく目を閉じた。

 

 

「諦めないから。俺は椎名さんが、いいんだよ」

 

 

そう言って、笑った桐谷くんの顔が“大翔くん”の顔と重なった。

 

初めて私の絵をみたときの、あの、太陽みたいな、笑顔と。

 

 

どうして?私じゃなくてもいいじゃない。

 もっと可愛くて、素直で…桐谷くんが告白すれば、すぐに付き合ってくれる女の子、いっぱいいるでしょ?

 むしろ、告白なんてしなくても…待ってるだけで選べちゃうのに……。

 

 

 

「俺さ」

「…?」

 

「なんとなくは気付いてた。椎名さんは“香奈ちゃん”じゃないかって」

 

 ウソ…

 

「雰囲気とか、性格は変わってないし。ミルクティ、好きだっただろ?

 あと……絵」

「絵…?」

「技術的にはかなり上手くなってたけど、昔と全然変わらない…」

 二って、桐谷くんが笑う。

 

 

「……温かい絵…」

 

 

 ほら、やっぱり…。私の言葉じゃ動じないクセに……

 私の気持ちは、彼の言動で…こんなにも揺さぶられてしまう。

 悔しい。

 

 うって、息が詰まった。

 嘘じゃ…なかったんだね……。

 私の絵だけは、キレイって。良い絵だって。

 

ずっと…思ってくれてたんだ、大翔くん。

 

 

頬を流れる温かい水をそのままに、駅のホームから空を見上げた。

 

いつの間にか台風は去って、灰色の雲間からは、ちょっとだけ青空が覗いてた。





 面白かったらぽちっと
↓とても励みになります
web拍手 by FC2

inserted by FC2 system