「私の“見た目”が、キレイになったから?」
「…!」
「整形して可愛くなったから、好きになったの?」
彼の肩がわずかに揺れた。
「今の私の外見が昔のままだったら、好きって言ってくれた?」
「…そ…れは」
「そんなわけ…ないよね。好きな人に、あんな酷いこと、できるわけない。“大翔くん”は“香奈”のこと、好きでも何でもなかったでしょ?」
むしろ、嫌悪してた。
遊びで夢へのチャンスを潰してしまえるくらいに。
たとえその行動が、幼さゆえの過ちだったとしても。
「久しぶりに会った私が、見た目だけ好みの女の子になってたからって…それで好きになれちゃうの?」
昔のことにこだわってるわけじゃない。
ただ、人を見た目で判断する人のことは…好きじゃない。
『昔の私』を知ってる桐谷くんが『今の私』に本気であればあるほど…人を、女の子を見た目で判断してるってことなんだよ?
「私、そういう人はムリ…」
世の中の大多数の男の人と、変わらない。
女の子のこと、装飾品みたいに連れて歩いて、自慢して、鼻を高くしていたいだけ。
「だから…ごめん。私のことは」
「嫌だ」
「…え?」
「諦めろって言うんだろ?だったら嫌だ。誰を好きでいようと、俺の自由」
「でも私は…っ!」
「俺のこと好きになるのはムリ?……そんなの…」
「……!」
トンって。
桐谷くんの膝が、私の座ってる隣のイスに、乗って。
ちょうど目の前にきた喉仏が、動いて、低い音を奏でる。
「やってみなきゃわかんねーだろ」
私の耳元、不敵に囁く声は自信満々、余裕って感じ。
意志が強くて、いつだって…私のコトバじゃ揺らがない。
その顔は、クラクラするぐらい『男の人』で。
とても、直視してられなくて……ぎゅって、キツく目を閉じた。
「諦めないから。俺は椎名さんが、いいんだよ」
そう言って、笑った桐谷くんの顔が“大翔くん”の顔と重なった。
初めて私の絵をみたときの、あの、太陽みたいな、笑顔と。
どうして?私じゃなくてもいいじゃない。
もっと可愛くて、素直で…桐谷くんが告白すれば、すぐに付き合ってくれる女の子、いっぱいいるでしょ?
むしろ、告白なんてしなくても…待ってるだけで選べちゃうのに……。
「俺さ」
「…?」
「なんとなくは気付いてた。椎名さんは“香奈ちゃん”じゃないかって」
ウソ…
「雰囲気とか、性格は変わってないし。ミルクティ、好きだっただろ?
あと……絵」
「絵…?」
「技術的にはかなり上手くなってたけど、昔と全然変わらない…」
二って、桐谷くんが笑う。
「……温かい絵…」
ほら、やっぱり…。私の言葉じゃ動じないクセに……
私の気持ちは、彼の言動で…こんなにも揺さぶられてしまう。
悔しい。
うって、息が詰まった。
嘘じゃ…なかったんだね……。
私の絵だけは、キレイって。良い絵だって。
ずっと…思ってくれてたんだ、大翔くん。
頬を流れる温かい水をそのままに、駅のホームから空を見上げた。
いつの間にか台風は去って、灰色の雲間からは、ちょっとだけ青空が覗いてた。