しん…と静まりかえった殺風景な部屋。
その広さ、3坪弱。
塵一つ落ちていないフローリングには、カーペットやラグの類は敷かれていない。
安物のパイプベッドと、小さなデスク。
デスクの上にはパソコンと、何枚かの書類が無造作に置かれている。
この、狭い空間にある物は、それくらい。
不意にベッドのふくらみが動き、何かがムクリと起き上がった。
盛大に伸びをし、いかにもだるそうな足取りでデスクへと歩み寄る。
書類を手に取り眺め、大きな欠伸を一つ。
――コンコン
部屋のドアが静かな音を立てた。それは例によって、返事をする前に開けられる。
「ノック、してくださいっていつも言っているでしょう」
「ああ、起きていたのか。すまない、明かりが漏れていないからまだ寝ているのだと思って」
進入者は少しも悪びれずにそう言った。
毎度のことなので、今更咎める気もおきない。
「こんな暗いところで電気も付けずに読んでいたの?」
「今日は満月です、十分明るいですよ」
その答えを聞いて何を思ったのか、進入者は薄っすらと笑みを浮かべた。
とってつけたようなその微笑を月の光が静かに照らし出す。
「
今回の件は慎重にね」
「分かっています」
「とても大事な仕事だから、君に任せることにした」
「ええ」
「君を…信用している」
窓の外は不思議なほどの静寂に満ちている。
雲ひとつない空に、月だけがポカリと浮かぶその情景は、まるで闇色の空がそこだけ丸く切り取られ、別の世界へ繋がっているかのようだった。
ドアの取っ手に手を掛けた部屋の主を、進入者が呼び止める。
「いつも言っていることだけど、くれぐれも――ことだけはないように、ね」
「分かっていますよ。さもなくば追放…でしょう?」
クスリと一つ笑みを漏らし、人影はドアの向こうへと消えた。
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