気になるあの子の落とし方[前]



【R18:この話は性描写を含みます。閲覧は自己責任でお願いします。苦手な方は引き返してください。大丈夫な方のみどうぞ↓】





























「あっ!菜々姉ちゃん!」

 家の玄関扉に手をかけた奈々子(ななこ)は、元気な声に呼ばれ振り返った。

「あれ?姉ちゃんこんな時間にバイトだったの?」

 奈々子の隣の家の一人息子、流夏(るか)だ。 流夏と菜々子の両親は学生のころからの友人で、昔から仲良くしているご近所さんである。
 高校生に上がったばかりの彼は学校帰りのようだ。制服姿で、手に学校指定のバッグを持っている。

「金曜日は講義がないから一日空いてるの。家でゴロゴロしてるとお母さんがうるさくてさー」
「ははっおばさん相変わらずだね」

 渋面をつくってみせた菜々子に流夏が吹き出した。
 部屋で惰眠を貪ろうにも、やれ布団が干せない、時間がもったいない、と延々グチられて耳にタコだ。専業主婦はヒマをもて余していて困る。

「あれ?でも流夏くん、どうして私がバイト帰りって…」
「姉ちゃんの服。大学行くときはもっと可愛いの着てってるでしょ?」

 ギクリとした。
  昼間のシフトで出勤しているのはおおむねパートの主婦だ。同年代の男子が溢れている大学と比べ、どうしても手を抜きがちになる。
  まして菜々子は最近、浮いた話とはご無沙汰なのだ。

 うーん…そんなにあからさまかなあ。

 母親からは何度もからかわれているが、流夏にまで指摘されるとは思わなかった。無意識にがっついているのかも、と軽く自己嫌悪。彼氏募集中なのは否定しないけれど。


「あ、そんな気にしないで。俺は今日みたいにカジュアルなのも好き」
「流夏くん…」

 見かねた弟分の優しさ溢れるフォローに、菜々子は胸を熱くした。


  名前の字面と外見の可愛らしさで、最近まで女の子に間違えられることも多かった流夏。
  キメ細やかな肌に、中性的できれいな顔立ち。そして何より、機転がきいて優しい性格。 本人にとっては悩みの種らしいが、菜々子は密かにピッタリな名前だと思っている。
 幼かった流夏が本気で親に改名を迫ったというエピソードを知っているので、面と向かっては言えないけれど。

 これくらいの歳の子って反抗期真っ只中だよね。流夏くんも家ではおじさんおばさんに反抗したりするのかな。

 じっと見つめると、流夏は不思議そうに首をかしげた。変声期が過ぎ、身長を追い抜かれた今でも、その仕草は昔と変わらずかわいらしい。

 うーん…想像できないなあ。


  じっと端正な風貌を見つめていると、控えめな声がかかった。


「…ねえ…菜々姉ちゃん、今からちょっと時間ある?」
「ん?夕飯までは特になにもないけど」

 二つ返事で返せば、流夏は少し照れたように言った。

「ちょっと…相談っていうか、お願いがあるんだけど」







 シックな色で統一された部屋のソファで、菜々子はキョロキョロと視線をさまよわせた。
 以前流夏と会ったとき自分の部屋をもらったとは聞いていたが、これは予想外だ。目測でも菜々子の部屋の二倍はある。


 ほどなくして、飲み物を片手に流夏が戻ってきた。

「わ、カルピスだ!嬉しい」
「ちょうど冷蔵庫にあった。姉ちゃん好きだよね」

 コトリとローテーブルにグラスが置かれる。菜々子はすぐにストローに口をつけ、半分ほどを一気に飲み干した。すでに陽は傾いているとはいえ、まだまだ暑い季節だ。


「ほんと、流夏くんってできる子!こんなに広い部屋なのにちゃんと片付いてるし。自分ちより居心地抜群だよ」

 兄と姉の三人兄弟の菜々子は、ずっと下の兄弟が欲しかった。おとなりに子どもが生まれたと聞いたときは飛び上がって喜んだものだ。
  毎日のように流夏をかまいに行っては、迷惑だからやめなさいと母親に(たしな)められた。

 叱責に耐えて通った甲斐あってか、流夏は菜々子によく懐いた。両親にくっついて遊びに行けば、始終菜々子の後ろをちょこちょことついてまわった。
 照れくさくて口に出したことはないが、菜々子は実の弟同然に思っている。
 そんな流夏が大人びていくのは、楽しみだが少し寂しくもあった。


「流夏くん、学校でモテるでしょ」
「まさか。全然だよ」
「またー、照れなくていいのに。あ、好きな人とかは?」

 いるんでしょ?と菜々子が身を乗り出すと、流夏は黙って目をそらした。わずかに頬が赤い。

「え!やっぱいるんだ!きゃーどんな子!?」

 流夏が真っ赤になって俯く。

「…元気で明るくて…すごく、カワイイ」

 尻すぼみになる言葉とは逆に、頬の赤さは増していく。失礼千万だが、恋する乙女みたいでめちゃくちゃ可愛い。
 照れ隠しか、菜々子からは目をそらし、流夏は遠慮がちに切り出した。


「実は…相談っていうのもそのことなんだけど…」

 流夏は近々彼女に想いを告げようと決心したらしい。が、女子の気持ちなどまったく分からない。そこで、気の置けない菜々子に助言を仰ぎたいとのことだった。

 こんなこと、菜々姉ちゃんにしか頼めなくて。
 そう呟いて伏せた長いまつげは、わずかに震えている。切り出すには相当の勇気がいったに違いない。
  菜々子はぎゅ、と両手で流夏の手を握りしめた。こんないじらしいお願い、逆立ちしたって断るわけない。


「任せて!おねーちゃんが絶対にうまくいくようにしたげる!」







 それから、熟考の末、彼女をデートに誘うということで話はまとまった。場所は遊園地。元気な子なら楽しめるだろうし、流夏の器量なら多少混んでいても要領よくやれるだろう。

「ベタだけど、観覧車で告白とかいいんじゃないかな。二人で遊園地なんて、誘われた時点で彼女も薄々こっちの意図を察してるから、来てくれたなら脈アリだと思っていいんだからね」

 流夏は、ときおり頷きながら真剣に菜々子の話に耳をかたむけている。 最近、一緒に遊んだり勉強を教えてあげることが減ったので、こういうやり取りは懐かしい。


「女の子って夢をみたい生き物だから、ちょっと恥ずかしいくらいの演出がちょうどいいの。そんなマンガみたいなこと恥ずかしくてできないって人も多いけど、気になってる人にされれば案外落ちちゃうもんだよ」
「そっかあ…!ちょっと恥ずかしいけど頑張ってみる」

 目を輝かせる流夏に、菜々子は鼻を高くした。
 そういった経験は決して豊富ではないが、二十歳をこえた菜々子にとって、流夏くらいの年齢の男女交際はおままごとみたいなものだ。

「ふふー。大船に乗ったつもりでなんでも聞いて!」

 調子に乗って胸を張ると、流夏はまたも頬を染めた。


「じゃあ……遠慮なく聞いてもいい?…そのー……キスとか、どこまでなら大丈夫?」
「……え、キス?」
「や…あの、もしその場で付き合うことになって、良い雰囲気だったらの話だけど」


 可愛い弟には似つかわしくない単語に菜々子はうろたえた。しかし、ここで口ごもることはできない。流夏は期待のまなざしで、頼れる姉のアドバイスを待っている。


「え…とー……いいんじゃない。観覧車のてっぺんで…とか、ロマンチックだと思う」
「本当?」

 ぱ、と顔をあげた流夏は嬉しそうだ。尻尾がついていたら、ちぎれるくらい振りたくっているに違いない。
 これ以上訊かないでくれ、と内心冷や汗の菜々子にはかまわず、流夏は質問を重ねる。

「どうやってすればいいかな?」
「ど、どうやってって…」
「菜々姉ちゃんだったら好きな人にどうやってキスしてほしい?」


 …答えられるわけがない。
 曇りのない瞳に見つめられ、菜々子は顔が火照っていくのを感じていた。ソファの隣に座る弟の顔を直視できない。
 しかし、他ならぬ流夏のお願いを、恥ずかしいなどとくだらない理由で無下にするなんて。


 長い沈黙の後、菜々子はやっとのことで、

「…え…と、気持ちのこもったキスがいい…かな」

 と言ってしまってから、あたりまえだと思った。気持ちがないのに告白などしない。
 案の定、流夏は難しい顔で考え込んでいる。

「どんな風にすれば気持ちがこもってるって伝わる?」
「え?えと…優しく丁寧に……とか、あ、あんまり強引じゃないほうがいいかも…」
「んー…?よく分かんない。ちょっとしてみてもいい?」

 言うなり腕をつかまれた。

「え!?ちょちょ、ちょっと待って!してみるって、キス!?」
「うん」
「る、流夏くんが…私に…?」
「うん」

 流夏の目は大まじめで、冗談を言っているようには見えない。

「だ、ダメだよ…。キスって、好きな人同士がするものだよ…」

 口に出してしまってギクリとした。向けられる視線は、ひどく傷ついている。

「そ…だよね。俺が良くても、姉ちゃんが嫌なら仕方ないよね」
「あ、や…嫌ってわけじゃないんだけど…」
「ほんと?」

 しまった、と後悔したが遅い。傷ついた顔が一転、キラキラと輝く。

「う、うん。大丈夫、キスくらい…」

 菜々子は半ば自分に言い聞かせるように呟いた。
  幸か不幸か、現在彼氏はいない。誰とキスしようが菜々子が気にしなければ大した問題ではない。

  よく分からない根拠を並べ、菜々子はなんとかこの奇妙な状況を正当化しようと努めた。


 流夏の腕が伸びて、頭の後ろに触れる。
 ゆっくりと引き寄せられる。目をつむると、唇に温かくて柔らかい感触。


 あ、この感じ…久しぶり。


 前の彼氏としたのはもう一年以上も前だ。甘い余韻に浸っていると、ペロ、と唇を舌で舐められた。

「ひゃ…!」
「あ…ごめ…!すげー可愛くて…つい」

 しゅん、と萎れる流夏に、菜々子は慌てて大丈夫、と首を振る。

「今みたいなのでよかった?」
「う…ん…」

 流夏のキスは、優しくて丁寧で、それでいて甘くて、恋人がいた頃のことを思い出してしまったくらい。

 大切にされていると実感できるキスだった。これなら、明るくて元気な彼女も嫌がるまい。

「あの…もう少し、しちゃダメ?何回か練習しといた方が安心だから」

 ぎゅっと菜々子の手を握った流夏の目が、お願い、と言っている。
 ためらった末に頷いてしまったのは、一度してしまえば二度も三度も同じだと自分を納得させられたからか、それとも別の理由からか、菜々子自身にもよく分からない。


 二度目は一度目よりも強い力で抱き寄せられた。流夏の胸にしなだれかかるような形で唇が合わさる。
 包み込むように食まれ、じくんと下腹が(うず)いた。
 耐えきれずに吐息を漏らすと、開いた唇の隙間から熱い舌が入ってくる。

「…っ…ん…」

 くちゅ、と湿った音が聞こえ、大げさなくらい身体が震えた。

 私…おかしい。これは練習で、相手は流夏くんなのに。


「嫌じゃない?」

 唇を離し囁いた流夏の声は、先ほどよりずっと低く掠れていた。
 菜々子はフルフルと首を振る。信じられないくらい身体が熱をもっている。
 流夏の手が首筋をなぞり、鎖骨にキスが落とされる。


「どうしよう…なんでか…菜々姉ちゃん、いつもよりすげー可愛い。女の子ってキスしたら皆こんな風になるの?」
「え…わかんな…」

 言い終わらないうちにトンと肩を押され、身体がソファに沈む。見下ろしてくる顔は、菜々子の知っている流夏ではなかった。
  その表情には可愛らしさもあどけなさもなく、欲情した男の色気だけが漂っている。

 ブラウスをたくし上げられたところで、さすがに菜々子は待ったをかけた。

「ちょ!待って…!これ以上は…さすがに…」
「…どうして?女の人は気持ちいいとココが硬くなるんでしょ?」

 クニ、と下着越しに乳首をつままれた。

「っあ…!」
「こんなにしこってコリコリになってるのに、ダメなの?」
「や…うそ……ぁっ」

 フロントホックを外され、ぷるんとこぼれた胸を、流夏の手が優しく揉みしだく。

 節ばってゴツゴツしている。いつからこの子は、こんなにも男になったのか。
 ざらりとした手のひらが乳首をかすめるたび、菜々子は身体を震わせた。

「る…か……く…っん…!」
「ん…?こうすると気持ちいい?」

 揉まれながら、ときおり人差し指と中指で乳首を挟まれ、(しご)かれる。菜々子は喘ぎ声を我慢するのに必死だった。


「声、カワイイ…もっと聞かせて。どこがイイか教えてよ、菜々子おねーさん?」


 快感に震える菜々子の身体に覆いかぶさるような格好で、耳元で囁かれる。敏感な部分に温かい吐息を直に感じて、菜々子は耐えきれずに甘い声を漏らした。
 その様子に気づいた流夏が、目を細め、声を出さずに笑う。


「…ここ?」

 ペロ、と耳たぶを舐められ、口に含まれた。濡れた感触と、ぴちゃぴちゃといやらしい音が直に耳に伝わってくる。

「あっ…あーっ!やだぁ…」
「嫌?でも、気持ちよさそう」
「こんなの…だめ…!るかく……ぁ……」

 生理的な涙が頬を伝った。と、
 不意に、菜々子に覆いかぶさっていた身体が退いた。ソファに膝をつき、心配そうに菜々子を眺める。

「泣くほど嫌だった?ごめん。俺…自分のことばっか…やめてほしい?」
「あ…ち、ちが…」

 弄られるだけ弄られて、中途半端に放り出されては堪らない。菜々子は、浅い呼吸を繰り返しながら流夏を見上げた。

 理性は、とっくに消え去っていた。


「流夏くん、おねがい…さわって。も…我慢…できない」







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