第1章7





「食べる?」

「え、なになに、このパッケージ、初めて見た!」

「パリっこ…?へーポテトチップスみたいなモン?」

 

 遠足恒例、おやつ交換。班ごとに座ったバスの座席で、私はイチオシのお菓子を他3人に回した。

 

「小学校のとき流行ってて、この味がもうヤミツキなの」

自信満々で言ったけど、ポリポリと薄いジャガイモをかじる杏奈と麻生くんは、何だか微妙な表情。どうして?二人とも顔しかめてる。

 

「コレ…美味い?」

「……なんて言うか…未知の味ね」

「えぇ…?そんなハズは…」

 

 二人がもういらないって首を振るかたわら、桐谷くんだけは黙々とパリっこを頬張ってた。

 

「ほら、桐谷くんは食べてるよ?」

「え…大翔、ウマいの?」

麻生くん、オバケか何かでも見たような顔。

「ん、俺もコレ、ガキの頃から好き」

「だよねぇ!」

 良かったぁ。せっかく皆といるのに一人で食べるなんて寂しいもん。

 

「これ、どこで買った?」

 そう尋ねる桐谷くんは、いつになく真剣な顔。

「えっとね……」

「どこ?」

「……やっぱ言わない」

「はぁ?」

 キレイな形の眉が歪んで、眉間に皺が寄った。

「言ったら買いに行くでしょ?」

「もちろん」

「私だってあちこち探してやっと少しだけ置いてるとこ見つけたんだよ。それが皆に知られちゃったら…」

 

 噂が噂を呼んで、町にパリっこブーム到来。売り切れ続出。パリっこは絶滅危惧種に…。

 

……それはヤダ!

 

「…別にいーよ。そのかわり、見つけたら買い占めるからな」

 べぇって舌を出して、桐谷くんは意地悪な顔で笑う。


 そんなぁ…ずるい。私が好きなのを逆手に取って…。

 

「……もー…絶対、他の人には内緒だからね…」

 

 

 杏奈と麻生くんに聞こえないよう、私はヒソヒソ話の体勢をとったけど、二人はとっくに別の話題で盛り上がってた。

 

 

 

 

 

 

遊園地に着いて4時間、お昼ごはんも食べずに遊んでたら、パーク内の乗り物はほぼ制覇してしまった。

 

「ね、もう一回あれいこうよ!」

「いーね!賛成」

 

杏奈が指差したのは、パーク内で一番激しいコースター。

え…まだ乗るの…?空きっ腹で激しいアトラクションをまわって、私は正直酔ってしまった。でも、楽しんでるみんなの手前、気持ち悪いから休んでいい?なんて、言えない。

いっか。私がもうちょっとガマンすれば…。

 

 

「俺、パス」

「え!?大翔、なんで?」

「腹へったし。そこの店で適当に買って食ってるから、行ってきて」

「うーん…でも、奇数になるっしょ?」

 

 どうすっかなーって困ってる麻生くん。その時、ちらって、桐谷くんが私の方を見た。気のせいかもって思うくらい、さり気なくだったけど、でもたしかに。

 

 

「あ…じゃ、あたしも。ちょっと休憩してるね」

「え、咲、いいの?」

「うん。喉渇いちゃって」

「んじゃ、俺と西野さんで行ってくるか」

 

 

 

 

「気分悪いんだろ?」

「え…?」

杏奈と麻生くんの背中を見送ってたら、隣の桐谷くんが不機嫌そうな声で言った。

「なんで言わねえの?…何かあってからじゃ遅いよ?」

「別に…まだ大丈夫…」

「大丈夫なヤツは、んな辛そうな顔しねーよ」

 

 ほっとしたからか、気分の悪さが一気にきた。胃のあたりがムカムカする。桐谷くんは、とりあえず座ろうって、私の手首を掴んで近くのベンチに連れてってくれた。

 口調はぶっきらぼう。だけど、私に触れた長い指は、そっと、壊れ物を扱うみたいにやさしくて。

 きゅうって、喉の奥が熱くなって、涙が出そうだった。

 

 

「じゃ、俺そこで何か買ってくるわ」

 しばらく木陰で風に当たったら、気分はかなり楽になった。ずっと隣に座っていた桐谷くんが立ち上がる。

「欲しいもの、ある?」

「あ…じゃあ…ミルクティ」

「リョ―カイ」



「……ありがと…」

 

 売店の列にならんで、桐谷くんは大きなあくびをしてる。それを見てたら、知らないうちに頬が緩んでた。





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